記憶の欠片たち
茜は人差し指を口元に当てながら、真剣に目を凝らして。
あたしたちもその返答を静かに待っていた。
「…あれは多分1組の連中…?あ、あの中心にいるお調子者の野球部は知ってるよ!小林!」
「あの人?」
あたしは後輩に確認するものの、後輩は「違います」の一点張りで誰なのかは教えてくれそうもない。
あたしはその「小林」とやらの顔だけ覚えて、後日調査に乗り出そうと心に決めた。
だって、楽しそうじゃん?
でも。
「私、アッキー先輩に告白して振られたんです…。だから、紗季先輩も忘れて下さいね?」
後輩にそう言われたのは、それから間もなくの事だった。
「…は?コクった!?もう!?名前さえ分かんなかったのに!?」
部活後にコートの片付けをしている最中、思わずそう叫びながらポカンと口を開き、あたしの動きが止まる。
…分かんない。
あたしにはその行動の意味が理解出来なかった。
「もう、いいんです。告白した時に初めて話したんですけど…なんか思ってた人と違ったし…」
いや、そりゃそうだろ。
と突っ込みたくはなったけど。
下をうつ向きながら、傷付いているのを笑顔で隠すその子を見て、少なからずアッキーとやらに敵意を持った。