記憶の欠片たち


どうやらグランドから投げた野球ボールが迷い込んだらしく、あたしたちが見ている事にも気付かず、必死に視線を動かしていた。


「…あー!あった、あった!」

そう言う小林の視線の先は、花壇の中心で。
躊躇いもなく、花壇の中へ足を踏み入れたもんだから。

「…!?ちょっとアンタ!」

あたしはただ反射的に。
奴の足を止めようと、
あたしの足が無意識に奴へ向かっていた。

だって…。


「――おい!小林ッ!!」

グランドから近付いてくる大きな声に、あたしはビクッと足を止めて声の主を見る。

それは小林も同様で、
花壇に片足を踏み入れたまま、その声の主を振り返っていた。


「…てめぇ、何やってんだよ!」

「…何って、ボール…」


「――花!踏んでたら殺すッ!」

…ぇ?

まさかの言葉に、あたしはただ驚いて固まっていた。
だって、男子だし。
園芸部ってかんじでもないし。

黒いダッフルコートの、
言葉づかいの悪い、
花と程遠そうな男の子が…

花たちを守った。


なんか…
何だろう、この気持ち。

感動…?
親近感…?


「…茜…、あれ誰?」

「知らなーい。てか、やっぱ紗季、花好きなんじゃん。」


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