記憶の欠片たち
「ちょっと待ってて?」
そう小林が自分の鞄を取りに行ってる合間に、あたしは扉から教室を覗き込む。
黒いダッフルコート…
黒いダッフルコート…
居ない、か…。
やっぱり違うクラスなのか、
部活繋がりの男子か…
昨日の様子からすると、小林に聞けば一発で分かるんだけど…
あたしは、それをしなかった。
「…ぁ。いたいた~、アッキー!!待って待ってー!」
そう駆けていく小林の先には、
黒いダッフルコートの後ろ姿。
「…ぇ…マジで…?」
あたしは少し小林から離れて、誰にも聞かれない小さな声で独り言。
あたしの…
止まっていた物語が、
今…
前へ、進み出す。