記憶の欠片たち


『紗季ちゃん、花は好き?』

――嫌い。

『どうして嫌いなの?こんなに可憐で美しいのに…』

――……哀しいから。


『どうして哀しいの?』

――…言いたくない。


『……困った子ね…。華道家の娘なのに、花が嫌いなんて…。いいわ、紗季は次女だもの。お姉ちゃんが継いでくれれば…』


昔から変わらない会話。
たまに顔を合わせる母親の口から漏れるのは溜め息ばかり。

花は、嫌い。


「ねぇ、お母さん。あたし、テニス部に入ったんだけど。」

「…あぁ、そう。好きになさいよ。あら、大変!お教室の準備する時間だわ!」

「……うん、好きにする。」

「あ、夕飯代。いつもの所にあるから、今日も勝手に食べて頂戴ね。」

「…分かってる。」


嫌い。
嫌い、花なんて。


あたしから、

いつも大事なものを奪うから。


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