記憶の欠片たち
「おはよ、紗季!」
ふいに背中を叩かれて、肩に掛けた鞄がズルリと落ちかけた。
ろくに教科書も入っていない、格好だけの軽い鞄だから。
「おぁ、茜!はよー!」
鞄の位置を直す同じ肩に、ぎこちなく引っ掛けている黒いカバーのラケットを見て、隣に並んだ茜が目を見開いた。
「お!ついに買ったか!」
「…買ったは良いけどさぁ。高2にして新入部員て…どうなのよ。カッコ悪くない!?」
入学当初、先生たちはあたしが華道部に入るものと信じて疑わなかったし、半分以上諦めていた親でさえ『せっかく華道部があるのなら』と入部を勧めた。
学校側からすれば、華道家の娘の入部でハクをつけたかったり、家からの援助を期待してたり思惑があっただろうし。
マジでウザイよ。
だから、帰宅部と決めた。
入学から1年経った今、
仲良くなった茜の熱烈な勧誘を受けて、今更ながらテニス部に入部。
「いいじゃん、途中入部。紗季、運動神経いいし!すぐレギュラーじゃん?てか、じゃあ今日から参加で良いでしょ?部長に言っとくし!」
「まぁ暇だし、いいけどー。1年と一緒に球拾いからってのが納得いかなぁーい。」