記憶の欠片たち
学校は、好き。
強いあたしで居られるから。
花の匂いがしないから。
弱いあたしを忘れられるから。
「お、紗季ー!おはよ~!」
「はよー!見てコレぇー!超~テニス部っぽくない!?あたし!」
辛うじて髪は黒いものの、耳には沢山のピアス。
スカートも人より短く、アイメイクもバッチリで。
どうやら目立つらしく、下駄箱に着くなり誰かしらに話し掛けられる。
「紗季ちゃ~ん!おはよ~!そろそろ俺と付き合わない~?」
あたしは、いわゆる落ちこぼれ組で。
言い寄ってくる男も、それなりのチャラ男なわけで。
「あはは、ムリ~!あたし理想、超高いからッ!」
「理想?言ってみ、言ってみ?叶えちゃうから!」
強引に肩に回された女慣れした手を、冗談っぽく叩きながら。
「マジで、理想いっぱいだよ!?例えばぁー、前世が犬だった人!とか?」
「ぎゃはは!俺、犬だった!絶対に犬だったから!だから付き合お~?」
…バカじゃん?
マジ無理だから。
「はい、嘘つき決定~。嘘つきとは付き合えませんから~!」
「つ~れ~ない~」
あたしが…
人を好きになるなんて、
考えもしなかった。