記憶の欠片たち

学校は、好き。
強いあたしで居られるから。

花の匂いがしないから。
弱いあたしを忘れられるから。


「お、紗季ー!おはよ~!」

「はよー!見てコレぇー!超~テニス部っぽくない!?あたし!」

辛うじて髪は黒いものの、耳には沢山のピアス。
スカートも人より短く、アイメイクもバッチリで。
どうやら目立つらしく、下駄箱に着くなり誰かしらに話し掛けられる。


「紗季ちゃ~ん!おはよ~!そろそろ俺と付き合わない~?」

あたしは、いわゆる落ちこぼれ組で。
言い寄ってくる男も、それなりのチャラ男なわけで。


「あはは、ムリ~!あたし理想、超高いからッ!」

「理想?言ってみ、言ってみ?叶えちゃうから!」

強引に肩に回された女慣れした手を、冗談っぽく叩きながら。


「マジで、理想いっぱいだよ!?例えばぁー、前世が犬だった人!とか?」

「ぎゃはは!俺、犬だった!絶対に犬だったから!だから付き合お~?」

…バカじゃん?
マジ無理だから。


「はい、嘘つき決定~。嘘つきとは付き合えませんから~!」

「つ~れ~ない~」


あたしが…
人を好きになるなんて、

考えもしなかった。


< 8 / 19 >

この作品をシェア

pagetop