HEMLOCK‐ヘムロック‐
 触りしか知らない透の過去のエピソードに泉が食い付いた。まるでオモチャを目の前にした子犬の様で、尻尾まで見える気がする。
興味津々な彼女の眼差しをかわし、透は資料に視線を落とした。


「べ、別に好きでやってた訳じゃないし、枕営業もしてないぞ俺は!!」


 透の焦り具合が可笑しくて、界と泉はニヤニヤしながら透を見ている。そんな様子を盟は呆れながら三白眼で傍観していた。


「話が脱線してきてるけど。とにかく、まずは相手の男を断定しなきゃね」


 盟の仕切り直しの声に全員がシャキッと背筋を伸ばした。
界はわざと偉そうな――実際この中で一番偉いのだが――咳払いをすると、今後の捜査方針案を発表した。


「しばらく奥さんを張ってみるか。で、相手が判ったら奥さん側とオトコ側で分かれて捜査だ」

「え? 奥さんも捜査するの? 判った後はオトコだけでいいじゃん」


 泉が率直な意見を述べる。


「奥さんがオトコとどういう経緯で知り合ったとか、オトコ側からだけじゃ掴みきれねぇ部分もあるからな。
ってか! お前捜査員じゃねぇーし!?
おとなしく事務所で事務しててくれよ?」

「ちぇ」


 またもや釘を刺され、捜査員に加わりたい泉は不服の声を漏らすのだった。



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