HEMLOCK‐ヘムロック‐
「ふーん。じゃあ橘さんが言ってた男とは違う男と一緒だったんだ~?」
界と透の今日の収穫を泉は依頼人用のソファーに座って聞いていた。その向かいに座る界と透は、一日中の尾行捜査に疲れ、グッタリとしている。
盟が自分のデスクでパソコンに報告内容を打ち込みながら口を挟んだ。
「中間報告の時に聞いたんだけど、橘さんの中学生の息子さんがその進学塾に通ってるみたい」
中間報告とは依頼人に捜査状況を伝える為のもので、場合によっては電話やメールだったり、直接面談だったりする。
橘は直接面談を強く希望し、興信所にも既に2回来ている。
「じゃあ、先生と生徒の母親の禁断の愛!?」
「そんな簡単じゃなさそうな気ィするな~。俺は。
だいたいにしてそいつは奥さんとホテルに行ったオトコじゃねぇしな」
界は、「また靴下に穴が開いた~」とボヤきながら、それを透に見せた。
「俺、明日塾講師の方もっと調べてみるよ」
関わりたくないと言わんばかりに透は完全スルーしたが。
「そうだな。俺はまた奥さんの様子みるわ。もう1人のオトコの事もあるしな」
「泉は!? やる事ある?」
「泉は私と事務よ」
意気揚々と乗り出すも、間髪入れずに念を押す盟の意味ありげな笑顔に、泉は黙るしかなかった。