HEMLOCK‐ヘムロック‐
 界は最後のページから開き始めていたので、ページを捲る度に思い出は過去へ過去へと遡っていく。


 ふと目に入ったのは、一枚の絵を映した写真だった。

盟が小学3年――黒菱の養女になって1年くらいの時に学校の課題で描いたものだ。笑った盟を中心に界や礼二、灰仁と家族全員が描かれている。

 この絵は界に、懐かしさだけでは無く、忘れていたあるやり取りを思い出させた。







 当時の界はひたすらに盟を避けていた。

 何故なら彼には、盟が夜逃げの船で出会った少女であると解っていたから。

灰仁も盟が界の両親や妹の事件に関連してると踏んで、界の話に聞いた少女を捜し出し、事件の手掛かりの為に彼女を養女にしたのだ。

 界には、盟が自分の平穏だった日々を壊した事件の原因に関わっている気がしてならなかった。

 この時には盟も、界があの船で一緒になった少年だと分かってはいたが、まりや界の両親については触れなかった。

 触れてはいけないと幼心に直感していたのだろうか。界が自分を避けている事も、何となくは解っていたのだろう。


「界お兄ちゃん」




 屈託の無い笑顔でそう呼ばれる度に、界の心は抉られる様であった。


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