HEMLOCK‐ヘムロック‐
 詠乃は界の意志の程を計っている様だ。真剣な瞳にいつものふざけた調子は微塵もない。


「それでも誰かがやらなきゃなんねぇ。ゾロゾロと大勢で乗り込めばいいって訳じゃねぇんだ」


 界の意志はどこまでも真っ直ぐだ。
詠乃はそれでも納得出来ない。どうにか考え直させたくても、行動しない所で界達が安全になる訳でもない。

 そんな堂々巡りの思考は、礼二の言葉で終止符を打つ。


「……解った。行って来い」

「礼二君!!?」


 詠乃は思わず、礼二の顔を確認した。正気かと言わんばかりの顔で。


「その荷物だと、今日にでも発つのか?」

「いや、明日の朝一で。今日は興信所もマンションも戻らないで漫喫かどっかに泊まる」


 「ちょっと待ってよ!」と詠乃は界と礼二を交互に見るが、焦るのは彼女ばかりであった。


「盟には? 言わないで行くのか?」

「言ってない。アイツは感づいてる。
けど、俺が既に紅龍會の場所を知ってて、明日発つ事までは知らない」

「最後に会わなくていいのか?」

「勝手に最後にしないでくれよ! 俺は帰ってくるつもりだけど。それに、アイツを騙し切る自信は無ぇ」


 界は笑って言ったが、それはどこか覚悟を決めた色を含んだ真剣さもあった。
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