HEMLOCK‐ヘムロック‐
 黒菱興信所がこの依頼を始めて10日が過ぎようとしていた。
咲恵が大石と接触した日と大石が柏崎と接触した日以外、3人がそれぞれ接触する様な動きは特に見られなかった。



「今日も咲恵さんはパートの後は真っ直ぐ家に帰ったわ。その後家からは出てない」


 時刻は夜の11時を回っていた。
 盟は今、咲恵の家付近の張り込みをしている。その現状を事務所の界に電話で報告していた。


『そうか。お前は大丈夫か?』

「え? ど、どうしたの?急に」


 突然心配そうな界の声に、盟は困惑した。


『いや、お前に張り込みなんかさせて……悪いなって』

「別に、今回が初めての事でもないのに。……やだ、明日で地球終わり?」

『俺が心配すんのは天変地異より珍しいか!?』

「珍しいよ」


 盟はキッパリと言い放ったが、本当は少し照れ隠しでもあった。
 界が素直に謝る態度が何だかくすぐったかったのだ。


『お、俺はこれ以上、お前に負担かけたくねぇんだよ……』


 真剣に言う界。――その言葉の真意、兄の思惑を知っている盟は一瞬黙ってしまう。


 それは、辿れば界が興信所を開いた理由にも起因する。




「……それはお互いに言いっこなしのはずでしょ。もう切るね」


 微妙な空気に耐えられるず、盟は電話を切ってしまった。

嬉しさと切なさとが入り混じった表情で、閉じた携帯を握り締める。


(界……私、こんなの辛くなんかない。負担なんかじゃないよ)



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