HEMLOCK‐ヘムロック‐
『私の生きる意味も……、無くなった』
『お前……!』
アイリーンはふと立ち上がり、出来上がったコーヒーをカップに淹れた。
コーヒーを界に差し出し、次にロッカーから何かを取り出して戻ってきた。
それは、よくある木製のチェスであった。
『私と勝負しない? 伯方 界』
界に黒の駒を渡しながらアイリーンは言った。
『私が勝ったなら、あなたは日本に帰りなさい。たとえあなたの妹やアフロディーテが組織に狙われてようが私には関係ないのよ。
二度と私の前に現れないで』
『……』
『チェスのルール知らない?』
『……いや、知ってる』
『そう、なら専攻の黒どうぞ。並べて』
界はチェス駒を手に取りながら、灰仁と将棋を差した日々を思い出していた。
アイリーンがチェスで決闘を申し込んだのは、思い付きと気まぐれだろう。
しかしあの日、灰仁との将棋で、差し合う事で灰仁が自分の何かを知ってくれた様に、アイリーンとチェスで向き合う事で彼女の闇の中に何かを見いだす事が出来るかもしれない。
界は確信も勝算も持たず、一縷の希望だけでポーンの駒を並べ始めた。