HEMLOCK‐ヘムロック‐

(あらかたポーンを動かして、すぐナイトを前線に出して来た……。
一見、積極的な手だが、全体的に見ると俺のあらゆる攻撃に対応出来る陣形だ)


 チェスで相手の気質を捕らえるのは、意外と有効な手段かも知れない。

 普段温厚な者が積極的に攻めるやり方をしたり、お馬鹿そうな奴が実は上手く爪を隠しているだけだったり。
チェスに限らず、人間の本質とは意外と『勝負』で浮き彫りとなる。

 アイリーンのチェスは、まるで獲物が罠に掛かるのを待つ蜘蛛と、その巣の様だった。

 しかしチェスとは、最終的には相手のキングを仕留める為に進めなければならない。
アイリーンは攻撃の方も執拗で、隙が無かった。


(俺の痛い所を突きながらも、確実に誘導してくる)


 界がアイリーンの1つ目のナイトを取った時には、既に彼のポーン2つとルークが1つ奪われていた。


『あなた、紅龍會の事はいつから知っていたの?』


 アイリーンがビショップを動かしながら、呟く様に尋ねた。
早くも界のクイーンに届きそうな展開。
界は頭で何手も先をシュミレートしながら答えなければならない。


『……知っててイオを日本にやった訳じゃねーのかよ』
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