HEMLOCK‐ヘムロック‐
目が覚めるとそこは白い天井。白いカーテン。
無機質な白に囲まれて彼女は横たわっていた。
「あの娘は陰性です」
「アフロディーテやペルセポネの代わりにはなりませんな」
「今後の事は上の決定待ちですね」
複数人の声がカーテンの向こうから聞こえる。
ぼんやりした頭で「自分の事を言ってるのだろう」と、なんとなく判別していた。
不意にカーテンが開けられ、30代後半の男性が、ベッドの彼女を覗き込んだ。
「起きていたのかい!?」
「ここはどこ? 今何時?」
この時のアイリーンは、事件のショックで記憶の一部が欠落していた。
自ら目の当たりにしてしまった、両親が惨殺されていたと言う記憶を。
カーテンを開けた男性は、彼女に繋がれた点滴を外し終えると、ゆっくりと彼女を見つめてきた。
彼の灰がかった青い瞳は何を訴えかけているのか。
少女には分からなかったが、酷く悲しそうな目だった。
「ここは……、病院だよ」
実を言うと男は嘘をついていた。
「パパとママはしばらく帰って来ないから。ちょっとの間、おじさんの所でパパとママの帰りを待とうね」
「おい、お前、何勝手な事言ってんだ」