HEMLOCK‐ヘムロック‐



 その頃透は呈朝会の事務所を張り込んでいた。
事務所の向かいのビルの非常階段に腰を掛け、何か証拠になりそうな物を逃さぬ様、右手にはデジカメを構えている。


(目立つ動きはないな。やっぱり外から張っているだけじゃ限界が……)


 その時事務所から若い2人の男が出てきた。透は迷ったが、会話を聞くためにその場を離れ、2人をつけることにした。


「……のヤツ、試したか?」

「ああ、ヤベ‥な、アレ。まだ出回って‥いんだろ?日本では」


 大通りに出て透は2人に接近したが、雑踏で会話は聞き取りにくかった。
しかしそのせいで組員の2人は大胆な会話をしていた。


「金にはなる‥ろうが、あんなヤクだからな。回す‥も慎重に‥らないと」




(!! ……良く聞こえないが、今確実にヤク――薬と言った。日本で出回ってない、新型の麻薬?)


 透は胸がざわついた。
それは決して、例の小包が麻薬のやり取りかもしれないという事にだけではなかった。
彼はその薬物に心当たりがあるのだ。


「で、会いにいくヤツ、大石だっけ? 柏崎さんの知‥合いの。カタギ者に任せ‥大丈夫なのか?」

「まぁ若い頃色々‥ってたらしいぜ。柏崎さんの選んだ‥なら大丈夫だろ?」



(間違いない。こいつらこれから大石と接触する。そしてそのやり取りは、麻薬の受け渡しだ!)


 透は急いで界にメールでこの事を伝えた。



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