HEMLOCK‐ヘムロック‐

『意味が分からない。私にはその“壊したくない物”が無いから憐れって訳?
だったら私にだって大切な物はあるわよ!』


 アイリーンは鼻で笑い、強気に言い返したが、もう界には分かってしまったのだ。

 彼女の壊したくないもの

 大切にしてきたもの……。


紅龍會で築いてきた努力、成果、地位、プライド――。

 全ては憎むべきアレスを超え、復讐する為。


 何かを憎み続ける事は、長く険しい道をずっと走り続ける事の様に辛く、
本当はとても難しい。

許してしまう事の方が、足を止めるのと同じくらい容易い事だ。

しかしそれは、アイリーンにとって“大切にしてきたもの”を砕く行為。
少しづつ高くなるプライドが、彼女が止まる事を許さない。

 憎み続ける事が、この14年で彼女の存在理由に等しいものとなっていた。



『お前はもう自分でもとっくに気付いてんだ。「HEMLOCK」が完成した時に――』

『違う……』

『自分で言っただろ。「生きる意味が無くなった」って』

『私は! それだけじゃない! 私は……』



『お前はとっくにアレスを超えちまってんだよ。

もう目指すものが無いんだ』
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