HEMLOCK‐ヘムロック‐
 走り続けた人がゴールを迎えたかの様に。

彼女の憎しみは、辿ってきた道のりにしか残されていないのだ。
もう、次に何を憎めばいいのか。


 イオに話を聞いた時に感じた途方のない絶望感も、今の界には全く感じない。
まりにあんな仕打ちをした、悪魔の様な女。

それでも今はただの人間にしか見えなかった。



 命の様に、憎しみも有限だ。


『私が何を目指すかなんて! アンタにどうこう言われたくない!!』


 アイリーンは拳で机を叩いた。しかし、拍子に涙が拳に落とされた。


「カイくんに助けて欲しい人がいるんだ」

 界はイオの言葉を思い出す。
 界も、アイリーンに対して今は同じ気持ちだった。

まるで鏡の中のもう1人の自分。

彼女の中に嫌でもチラつく、過去の自分の様な影。
それをどうにかしたいと、心から思える事が、界自身にも不思議で。
しかし確かな真実だった。


『……アンタ、紅龍會を潰しに来たんでしょ? アンタの事情なんか私には関係無いし、アンタに私の事も関係無い! やるなら私の関係無い所でやって』

『関係無い訳ねぇ。お前は紅龍會の研究員だ』

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