HEMLOCK‐ヘムロック‐
 アイリーンは真っ直ぐに界を見つめていた。それ以上に今の界の瞳は迷いが無い。
その立場は、チェスの勝敗からすっかり逆転しているのが明らかだった。


『俺が紅龍會に来た理由を知っているなら、俺が最初にお前の所に来た理由も分かるだろ……?』


ピピッ、
ウィーン。

 電子音とともに突然部屋の自動ドアが開く。
全く予想していなかった現象に、界とアイリーンは同時にドアに目を遣った。

現れたのは先程廊下ですれ違った初老の男。


『ベン!』

『アイリーン……』


 何事かと駆け寄ろうとしたアイリーンの足が止まった。
よく見ると、入口に立つベンジャミンは後ろ手に拘束されている。
そんな彼の後ろには、あのランディが立っていた。

 アイリーンが足を止めたのは、彼がベンジャミンのこめかみに銃を向けていたからだった。


『ランディ! あなた、誰に何してるか分かってるの!? 彼を放てよ!』

『よーく分かってるるぜ。お前になら、この俺がこんな事してる理由も分かるだろ?』


 アイリーンはハッと顔を上げ、界に振り返った。


『そう言う事? アンタがそこまで根回ししてたなんてね』
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