HEMLOCK‐ヘムロック‐
『伯方……界くんだったかな? 君に会う日がいつか来るんではないかとずっと思ってたよ』
『何で俺を……』
しかし、口にしながら界も気付いていた。
『君はお父さんにそっくりだよ顔も、声も。眼鏡してるのもね』
界が変装用で掛けていた眼鏡が、逆に彼の父、アレスを彷彿させたらしい。
自分がそこまで父親似だとは、界は無自覚だった。
その時、再びドアの開く音。
『アー。こりゃ確かにそっくりだな。アレスに』
いきなり現れたのは身長2メートルはあろうかという黒人系の大男であった。
現れるや否や、男はドアに1番近いランディの脇腹に拳を突き付けた。
……しかしその拳には刃渡り20センチ程の鋭利なナイフがしっかりと握られていた。
『ぐはッ!』
ナイフが引き抜かれると同時にランディは鮮血を吹き、膝を着いた。
『ランディ!』
『ヘルメスとアポロンは裏切り決定だからなァ。残念残念♪』
アイリーンがランディに駆け寄ろうとすると同時に、男はわざと倒れた彼の脇腹を蹴り飛ばした。まるでボールを相手にパスするかの様に。
『構わねぇ方がいいぜ、ヘスティア。幸いお前は“まだ”裏切り扱いにゃなってねぇ』
言葉とは裏腹にどこか惜しそうな目でアイリーンを見ながら、男は血の付いたナイフを舐めている。