HEMLOCK‐ヘムロック‐
『お前もいつまで“ソレ”持ってやがるっ』
ドカ!
鈍い音と共に、一瞬界の右腕は見えない力が掛かって後ろに持って行かれた。
その原因が視界に入った瞬間、界は男の動作の意味と、焼ける様な痛覚を知った。
男が投げたナイフが右腕を貫通して刺さっている。
『うわ!』
その掌で握っていた筈の『HEMLOCK』の製造データは、界の1メール程後ろに投げ出されている。
それを界が認識すると同時に、男が放った2つ目のナイフが、UBSを真っ二つにした。
『何のUSBか俺は全っ然、知らねぇが……。下手な事するとアンタも俺が殺さにゃならなくなるぜ。ポセイドンさんよぉ』
『……ヘファイストス』
ヘファイストスとは『12柱の神』の名の1つ。
この男は間違いなく、紅龍會最高幹部の人間であった。
『日本に居る仲間からお前がこっちに来てるって情報はとっくに漏れてたのさ。
アレスのガキめ』
(何だと……!? 何処から、いつ漏れた!?まさかイオを追って来た紅龍會の連中!?)
鞠 あさみのマネージャー、豊島 一哉の死で予感していた可能性。
まんまと今までそれを見逃していた事に、界は自分の不甲斐無さを腕の傷より痛感した。
『さぁ、立てよ。VIPルームに案内するぜ』