HEMLOCK‐ヘムロック‐
「おい透、変か? コレ。変じゃねーよな」
3つ並ぶ事務用デスクの1つに座る青年が1人。
すっかり支度を済ませて新聞を読んでいたが、界に呼ばれて振り返る。そして彼を見ると呆れた様な表情を作った。
「変だろ。下のが長くてとび出ちゃってんじゃん」
彼は駆藤 透(くどう とおる)。探偵助手。25歳。
界とは幼なじみ。元々は医大生だったが、界の元で働く様になった経緯は、また別の機会に明かそう。
「あー、くそっ! 今度は上のが有り得ねぇくらい長ェしっ」
私服を選ぶのが面倒な界は、仕事着であるスーツと開襟シャツが普段着なのだが、ネクタイは滅多に来ない客前でしかしない為、その様子はまるでブレザー制服を初めて着る、4月の高校生さながらである。
透がその様子にたまりかねて、読んでいた新聞を畳みながら提案した。
「ネクタイに何回手間取ってんだよ。盟にやって貰えば?」
「盟ー! ちょっとネクタ……」
「何?」
準備に追われる中、くだらない理由で声を掛けられた盟の眼差しは冷ややかだった。軽く小動物を射殺せそうなその眼力に、思わず界は呼び掛けたポーズのまま硬直してしまう。