HEMLOCK‐ヘムロック‐
「どうでもいいケド、不正取引にあたしら一課を呼び出さないでくんない? そうゆうのは二課の担当だからさァ」
気だるそうに森永刑事が言った。
彼女はイギリスと日本人のハーフで、今まで調査や事件を通して界とは顔馴染みの敏腕刑事である。
「グチグチ言うなよ~。森永 氷菓子(あいす)刑事、俺ら税金払ってんだし」
「帰るよ映。ここ居ると誰かみたく白髪になりそうだ」
「ああン!? 一昨日きやがれクソババ刑事!」
美貌と強さを兼ね備えた森永刑事にそう言った所で、誰がどう見ても界の負け惜しみだった。
「そうだ、忘れるトコだった、」
去り際に森永刑事が振り返った。
「あ、なんだよ?」
「呈朝会が流してた薬、例の『HEMLOCK』(ヘムロック)だった。会長の河端は外国人の男から購入したと言ってるらしい」
「!!!」
『HEMLOCK』という単語に界、盟、透は顔色を変えた。
「その外国人は!? 一体……」
「これ以上は喋れない。じゃ」
バタン! と音を立て、事務所の扉は閉じた。2人の刑事が去った後の興信所は、賑やかだった空気が一変し、無言に支配されてしまった。
「ヘムロック……って?」
泉の問いに誰も答えはしなかった。
見えない蜘蛛の糸はまだずっと先に繋がり、絡まっていた。