HEMLOCK‐ヘムロック‐

「ア、自分でやるんで、大丈夫デース……」


 彼の声は虚しくフェードアウトしていった。

 対照的に、明るく活発な笑い声がデスクより奥の依頼人用ソファーから響く。


「界くーん、いい歳してネクタイも結べないとか! 笑えんだけど! 泉がやったげよーか?」


 ソファーの背もたれに肘をつき、自身のサラサラストレートヘアを弄る少女。

銅 泉(あかがね いずみ)は、大企業銅グループのご令嬢。界のスポンサーで、黒菱興信所の運営費はなんと彼女の月々のお小遣いでまかなわれている。
弱冠15歳で飛び級し、アメリカの大学も卒業している。が、未成年なので一応事務という形でアルバイト扱い。


「いらんわ! ガキのくせに調子乗りやがって!」

「界くーん? 泉はココのスポンサーで、ビルのオーナーでもあるんですよー? わかってる?」


 そう。このオフィスビル『ネッシービルジング』は、現在ビルのオーナーを務めている泉の所有物である。
泉が居なければ経営すらままならず、実質、界はこの15歳の少女に頭が上がらない。
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