HEMLOCK‐ヘムロック‐
 泉は社長じきじきに連れられエントランスに向かった為、かなり注目を浴びた。

 エントランスには界が迎えに来ていた。界はカツラも被らずそのまま来たのか、泉達以上に視線を浴びている様だった。


「界、くん」

「界、久しぶりだな。お前は二度とこの会社に来ないと思っていたが」

「兄貴……」


 泉は礼二の発言が気になったが、追及はしなかった。
 何より、兄弟である筈の2人の間に、これ以上ない不和の空気が流れているのを読み取ったからだった。


「わざわざアカガネのご令嬢に届け物のお使いをさせるとは。ウチの不注意で悪かったな」

(てか、礼二さん泉の事知ってんじゃん!?)


「いや。泉が世話んなった。ありがとう。……泉、帰るぞ!」

「ハイ!
あ、その、色々ありがとうございました!!」


 泉は最後に礼二に向き直って挨拶した。界の手前、『HEMLOCK』の事を言う事は無いが。

 礼二も会釈はしてくれたが、目は相変わらずどこか冷たかった。



 黒菱探偵社のエントランスを抜け、興信所へ向かって界と泉は歩き出した。
< 60 / 343 >

この作品をシェア

pagetop