HEMLOCK‐ヘムロック‐
「すみません、先日依頼した者なのですが……」
「いらっしゃいませ。橘様ですね? お待ちしておりました。どうぞ奥へ」
予定通りの9時ピッタリに依頼人、橘 正也がやってきた。
頭髪はグレーで、僅かに白髪の数が勝っている。落ち着いた様子の初老の男性だ。
盟は先程泉が座っていた場所に依頼人を案内し、お茶と菓子を用意した。
もてなされた正也はぎこちなく座りながら、緊張してキョロキョロと事務所内を見回している。
「先日メールで頂いた依頼によりますと、どなたかの素行調査ということですがよろしいでしょうか?」
「えと、はい」
「それでは、詳しい依頼内容を伺わせていただきます」
盟はノートパソコンを開きながら依頼の相談を始めた。依頼人と対話しながら、パソコンの依頼フォームに情報を打ち込んでいくのがこの興信所のやり方だ。
依頼人の名前をブランドタッチで打ち込む盟の指が、キーボードをカタカタと鳴らす。
「あの、妻の浮気について調べてもらいたいのです」