HEMLOCK‐ヘムロック‐
「界くんにさ、29万のツケ支払われてませんって伝えといてね~。せっかくVIP料金なんだから」
「あ、はい。ホントすみません。ダメな兄で……」
「あと盟ちゃん、“その人”あんま関わらない方がいいかもよ」
「……このリストを私の前に借りた人ですか? なぜ?」
「私もよく解んないヒトだから」
今度の詠乃の笑顔を儚げではなく、どこか妖艶であった。
盟は界の嘘は見抜けても、彼女の思う所は全く掴めない。
「そんな人をVIPに入れてるんですか?」
「色々あってね。だって、関わってみなくちゃ解らない事もあるじゃない?」
関わるなと言ったくせに、関わってみなくちゃ解らない。
詠乃の言葉は矛盾していた。
「……ご忠告ありがとうございます。たまには詠乃さんも興信所にも遊びに来て下さいね」
「えぇ。ありがと♪」
詠乃と別れると、盟は『NESS』を出て、再びエレベーターに乗った。
独特の作動音に伴って、機械の箱は7階から4階に下降してゆく。
(あのホワイトボードに書かれてた名前、『勇』って誰なのかしら)
盟は会員名簿を見ながら“その人”について考えていた。