HEMLOCK‐ヘムロック‐
 一方でこの依頼人と盟のやり取りを、隣の資料室で新規依頼人用の資料作りをしながら透と泉が密かに聞いていた。

 ちなみに2人は通常、依頼人の応対はしない事になっている。


「今回浮気調査かぁ。アレってやる事多いよねぇ~。尾行とか、写真とかぁ」


 目をキラキラさせながら自分は今回どんな活躍をするのかと想い馳せる少女の思考を目ざとく読み取り、透は少女に釘をさした。


「あんまり馬鹿な事言ってるとホントに界に怒られるぞ」

「泉のおかげで解決した事件もあったじゃ~ん」


 子供扱いに腹をたてて、口を尖らせながら泉は反抗する。
座っているパイプ椅子をギシギシ揺する姿に、透は一瞬威嚇する猿を連想してしまった。


「1回だけ! あん時だけ、たまたまな」


 ふと、泉は椅子のギシギシを止めた。


「てかさ、なんで界くんって依頼人の話聞かないで盟に任せてんの?」


 面倒になると泉は平気で話題を変える。透はそんな彼女とのやり取りはとっくに慣れているので、別段困ったりもしないが。


 界は初めての依頼人の応対は、最初は盟にまかせ、依頼に対して具体的な捜査の説明に入るまで絶対に顔を出さないようにしている。


「はじめて界を見る人にとっては衝撃が強すぎるからじゃないか?」


 以前界の姿に驚いて、逃げるように帰ってしまった依頼人がいたからだ。
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