HEMLOCK‐ヘムロック‐
アポロンの元からあさみを連れ戻した界は、あさみを助手席に乗せて車で興信所に向かっていた。
日が落ち始めてもなお、新宿の道路は多種多様な車が通り、歩道は会社終わりの社会人や帰路に就く学生等で賑やかだ。
むしろ夜の新宿に向かって、人波は増してゆく。
しかし、車体を隔てた車内の空気は異様に静かで、あさみの嗚咽だけが虚しく響く。
彼女は未だに涙を流しながら、うわ言のようにアポロンの名を呼んでいた。
「アポロン、なんで? ……アポロンは、……うぅっ」
界は運転しながら一哉の携帯にさっきから何度も電話を掛けている。
「……ダメだ。豊島さん電話でねぇ。
とりあえず、ウチの興信所に来てもらうぞ?本当はすぐ警察に行った方がいいんだけどな」
界の言葉に反応し、泣きじゃくっていたあさみはパッと顔をあげ、彼を睨んだ。
「アンタやトヨが!! 邪魔するからッ、アポロンはあたしから離れてったのよォ!!」
あさみは横からボカボカと界を殴りつける。その顔は涙と鼻水で、とても見られたモノではない。
界は誤って対向車線から出そうになった。
「止めろ! 運転中だからッ! 大体、アイツはハナからお前を利用してただけだぞ!?」