HEMLOCK‐ヘムロック‐
それから6時間は経っただろうか。
真夜中0時過ぎ、界と盟はようやく解放され興信所への帰路を辿っていた。
「鞠 あさみが麻薬を購入していた事、警察に言わなくて良かったの?」
「ん? まぁ知らなかったって事で。一応捜査中にストーカーから助けた事にしといた。それにアイツに自首するチャンスやりたかったからな」
「彼女はこれからよね。でも豊島さんは――あたしが帰さなければあんな事には……」
「お前のせいじゃねぇよ」
界はそう言ったが、表情は重々しい。
「界、鞠 あさみが買ってた薬って、『HEM』なんでしょ?」
「あぁ。そして“アポロン”。ギリシャ神話の神の名だ」
「やっぱり、こんな日が来ると思ってた。3年前の透の事件の時。いいえ、父が亡くなった時からずっと……」
「俺のせいだな」
「やめてよ。何言ってるの!?」
盟は界の言葉にパッと顔を上げ、彼を見た。
「時々思う。探偵なんかやって他人の秘密を暴く事で、その人や周りの人を不幸にしてる気がするってな。
全てを知ることが幸せとは限らねぇのに」
暗い界の横顔をじっと見つめながら盟は歩いている。
どうして彼ががこんなにも傷つかなければならないのか――。
彼はガサツな様で実はどこまでも繊細で、誰よりも優しい。
そして、痛みを知っている。