ミモザの朽ち木
ロータスはいくつか信号を曲がり、繁華街を抜けた辺りで細い路地に入った。

迷路のように入り組んだ狭い道。

ほかに車の往来はない。

俺はタクシーの運転手に少し車間を空けるように言った。

尾行をはじめてからずっと嫌な予感がしていたが、ここまで来るとほぼ確信に変わっていた。


やがて二人を乗せた車は、中世の城を模倣した安っぽい建物の駐車場に入った。

ラブホテルだった。


全身の力が、どっと抜けていく。

緊張の糸が切れて、俺は激しい虚脱感に襲われた。

粉々になり、空っぽになり、泥濘にずぶずぶと沈んでいく。

息が詰まり胸がしめつけられる。

目の当たりにした事実は、俺に決定的なダメージを与えた。


ホテル街の一角、行き場を失ったタクシーの中で、俺は長い時間、失意に打ちのめされていた。
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