ミモザの朽ち木
ある日、滅茶苦茶に壊れたコーヒーメーカーを見て、これはどうしたのかと流利子が俺に尋ねた。

俺が叩き壊したものだったが、適当に誤魔化した。


ある日、ひかるが深刻な顔をして俺に言った。


「パパ、顔つきが変だよ。病気じゃない?」


「……大丈夫だ、すぐによくなる」


俺は力なくそう答えた。



――私はまだ比佐史のこと、ぜんぜん愛し足りないの。


あの時、ひかるを身ごもった流利子は俺にそう言った。

十三年という歳月をかけて、流利子は俺を愛し尽くしたということなのか。

そして今は、そのあり余る情愛をほかの男に注いでいるということなのか。


流利子、どうしてお前は、生き返ったりなんかしたんだ?


寝室に飾られた記憶にない写真――ミモザの木の下に並ぶ三人の顔を眺めながら、俺は流利子を殺す決心をした。
< 13 / 66 >

この作品をシェア

pagetop