ミモザの朽ち木
第二章 乃村流利子
振り返ると、この世に存在しないはずの娘がそこにいた。
不意に誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
――ママ、と。
そこにいたのは、市立F中学校の制服を着た見知らぬ少女だった。
にもかかわらず私は、その少女がひかるだと瞬時に理解した。
産むことのできなかった、わが娘、ひかる――。
「ねえママ、お弁当できてるかって訊いたんだけど?」
「……お弁当?」
手元を見ると、私は弁当箱を持っていた。
簡単に調理された食材が質素に盛りつけられている。
私はいつからキッチンにいたのだろう?
「早くしてよ。今日は部活の朝練があるって言ったでしょ?」
そう言われると、何となく、昨夜そのことを知らされていたような気がした。
ひかるが私の横に来て手元を覗き込む。
「できてるじゃん」
私の手から弁当箱をひったくり、巾着に包んでスクールバッグに放り込む。
それからキッチンを出ようとして振り返り、
「おととい洗濯かごに入れたピンクのブラジャー、今日中にぜったい洗っておいて」
そう言って慌ただしく玄関に向かい、ひかるは家を出て行った。
何が起きているのか、さっぱりわからなかった。
私はまだ夢の中にいるのだろうか?
不意に誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
――ママ、と。
そこにいたのは、市立F中学校の制服を着た見知らぬ少女だった。
にもかかわらず私は、その少女がひかるだと瞬時に理解した。
産むことのできなかった、わが娘、ひかる――。
「ねえママ、お弁当できてるかって訊いたんだけど?」
「……お弁当?」
手元を見ると、私は弁当箱を持っていた。
簡単に調理された食材が質素に盛りつけられている。
私はいつからキッチンにいたのだろう?
「早くしてよ。今日は部活の朝練があるって言ったでしょ?」
そう言われると、何となく、昨夜そのことを知らされていたような気がした。
ひかるが私の横に来て手元を覗き込む。
「できてるじゃん」
私の手から弁当箱をひったくり、巾着に包んでスクールバッグに放り込む。
それからキッチンを出ようとして振り返り、
「おととい洗濯かごに入れたピンクのブラジャー、今日中にぜったい洗っておいて」
そう言って慌ただしく玄関に向かい、ひかるは家を出て行った。
何が起きているのか、さっぱりわからなかった。
私はまだ夢の中にいるのだろうか?