ミモザの朽ち木
三人分の夕食を作り終え、ダイニングで見るともなしにテレビを眺めていると、当たり前のようにひかるが家に帰ってきた。

ただいま、も言わずに階段を上がり、ひかるは二階の自室に入った。


自室? そんな部屋があっただろうか――。


つかみ所のない違和感に頭を抱えているうちに、比佐史が仕事を終えて帰宅した。


そして、食卓に三人がそろった。


ひかるはせわしなく携帯電話を操作しながら、もう一方の手で器用に箸を使っていた。

箸の使い方が、ぞっとするほど私に似ている。


「おい、ひかる。飯の時くらい携帯を置いたらどうだ」


比佐史が注意すると、


「いいじゃん、べつに。うっさいよ」


恐ろしく横柄な態度で言い返す。


「……反抗期だな、まったく」


比佐史は叱りつけることもなく、あっさりと引き下がった。


盗み見るように、それとなくひかるの様子をうかがっていると、不意に私のほうに顔を向けた。


「なに? ママ」


「え? ううん、なんでもないのよ……」


ひかるの大きな瞳にじっと見詰められ、私はつい目をそらしてしまった。


「なんでもないなら、じろじろ見ないで」


家族三人がそろった初めての食卓は、ひどく居心地の悪いものだった。

知らない家庭で起きている出来事を遠くから眺めているような、どこか不自然な隔たりを感じた。
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