ミモザの朽ち木
翌日。

二人が家を出てから、私はひかるの部屋の前にやって来た。

私の記憶では物置として使われていたはずの部屋だった。

気味が悪くて近づくのも腰が引けたが、私は覚悟を決めてドアを開けた。


ベッド、学習机、洋服だんす。シンプルなものがシンプルに配置されている。

そこには確かな生活感があり、昨日今日に急ごしらえした形跡はどこにも見当たらなかった。

女の子の部屋にしては少し殺風景だったが、実用性を第一に考える性格は私譲りなのかもしれない。

少女らしさを感じさせるものと言えば、ベッドの隅に転がったカンガルーの縫いぐるみくらいだ。

けれど、それもこの部屋にはかえって不釣り合いで、それだけが妙に浮いているような気がした。


私は窓を開け、外を眺めた。

いつもと何も変わらない、平凡な景色がそこにある。

穏やかな春の風がカーテンを揺らし、どことなくわびしさの漂う部屋の中に、かすかな新芽の匂いを運んだ。
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