ミモザの朽ち木
第三章 乃村ひかる
家に帰ると、殺したはずのパパがダイニングにいた。
テーブルの上に広げた新聞を読みながら、湯気の立つコーヒーカップに息を吹きかけている。
背筋が凍りついた。
ありえない光景に愕然として思わず息を止める。
スクールバッグがあたしの手から床に落ちて、その音に気づいたパパがこっちを見た。
「おお、おかえり、ひかる」
ぼそりと言ってから、パパはまた新聞に視線を戻した。
あたしはいったん目を閉じて、三つ数えてから目を開けてみたが、パパはやっぱりそこにいた。
声ひとつ出せずに立ちつくしていると、玄関のドアが開いてママが入ってきた。
「ジャガイモだけ足りなくて、スーパーまでひとっ走りしてきちゃったわ。ひかるもいま帰ったの?」
買いもの袋を片手にママがダイニングに入ろうとしたので、あたしは袖をつかんで引きとめた。
「ねえ、そこにパパがいるよ……」
「え? ああ、今日はいつもより早く仕事が終わったみたいね」
ママはなに食わぬ顔でダイニングに入って行き、テーブルの上にあるテレビのリモコンを手に取った。
「ちょっとチャンネルかえていい?」
ママがパパに話しかけている。
パパは新聞から目を離さずに、「ああ」と低い声でこたえた。
ママは芸能ニュースにチャンネルをあわせ、テレビの音量を上げてから流し台の前に行き、夕食の準備に取りかかった。
テーブルの上に広げた新聞を読みながら、湯気の立つコーヒーカップに息を吹きかけている。
背筋が凍りついた。
ありえない光景に愕然として思わず息を止める。
スクールバッグがあたしの手から床に落ちて、その音に気づいたパパがこっちを見た。
「おお、おかえり、ひかる」
ぼそりと言ってから、パパはまた新聞に視線を戻した。
あたしはいったん目を閉じて、三つ数えてから目を開けてみたが、パパはやっぱりそこにいた。
声ひとつ出せずに立ちつくしていると、玄関のドアが開いてママが入ってきた。
「ジャガイモだけ足りなくて、スーパーまでひとっ走りしてきちゃったわ。ひかるもいま帰ったの?」
買いもの袋を片手にママがダイニングに入ろうとしたので、あたしは袖をつかんで引きとめた。
「ねえ、そこにパパがいるよ……」
「え? ああ、今日はいつもより早く仕事が終わったみたいね」
ママはなに食わぬ顔でダイニングに入って行き、テーブルの上にあるテレビのリモコンを手に取った。
「ちょっとチャンネルかえていい?」
ママがパパに話しかけている。
パパは新聞から目を離さずに、「ああ」と低い声でこたえた。
ママは芸能ニュースにチャンネルをあわせ、テレビの音量を上げてから流し台の前に行き、夕食の準備に取りかかった。