ミモザの朽ち木
それなのに。


「それなのに、パパが生き返ったんです」


すべてを話し終えた時、体中から冷たい汗が吹き出ていた。

今の今までその場にいたと錯覚してしまうくらい、記憶が生々しくよみがえっている。

ナイフを突き刺す感触、血が溢れ出る音、パパの焼けるにおい。


「つまり、乃村にとってはそれが真実で、今ある日常は夢か幻だと思ってるのか?」


ひどい寒気に襲われて、あたしはガチガチと歯を鳴らしていた。


「わからないです……わからないですけど、もうパパと一緒に暮らすことなんてできない」


唐突に、ある風景が頭に浮かんだ。

見渡すかぎりの植物があたしを取り囲んでいる。

生い茂る木々の緑、みずみずしい草花、そこは生命に満ち溢れた場所だった。

混じりけのない新鮮な空気が肺を満たし、あたしは満ち足りた気分になった。

ここにずっといたい、そう思った。


不意になまぬるい風が吹きぬける。

次の瞬間、周りの木々や草花が見る見る枯れはじめ、世界が鮮やかな緑から土色に塗り替えられた。

命が、音を立てて朽ちていく。


あたしの体も土色に染まりはじめた。

つま先から変色してあたしの体をはい上がり、土色になった足がぼろぼろと崩れだす。

あたしは悲鳴を上げた。
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