ミモザの朽ち木
「おい、乃村――」


まるでけいれんでも起こしたみたいに全身が激しく震えていた。

パパが恐ろしい。いや、そうじゃない。

あたしは今、別のものにおびえている。

でも、それがなんなのかわからなくて、わからないことが恐ろしい。


「乃村、大丈夫か? 今、薬を出してやるから待ってなさい」


乙ヶ部はふすまを開けてとなりの部屋に行き、小さなガラス瓶を手に戻ってきた。


「二錠、飲むんだ。すぐに気分が落ちつく」


乙ヶ部はガラス瓶から黄色い錠剤をふたつ取り出して、あたしの手のひらにそれを乗せた。


あたしは言われるままに錠剤を口の中に入れ、乙ヶ部から水の入ったグラスを震える手で受け取り、ひと息に飲み干した。


「ベッドで少し横になってるといい」


乙ヶ部はあたしの肩をつかんで立ち上がらせ、そのままとなりの部屋に入った。


パイプベッド、その脇に置かれたナイトテーブル、ほかにはなにもない部屋だった。

乙ヶ部に支えられながらベッドに腰を下ろした時、ナイトテーブルの上に飾られたアクリルのフォトフレームに目がいった。


あたしはなぜか、それが気になって仕方なかった。

誘われるように手が伸びてフォトフレームをつかみ取る。
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