ミモザの朽ち木
――闇。


あたしは闇の中にいる。


なにも見えず、なにも聞こえない。


ゆらりゆらりと揺れながら、あたしは深海魚のように闇の中を浮遊している。


なにも見えず、なにも聞こえない。だけど温度を感じる。


ゆらり、ゆらり。あたしが揺れるリズムにあわせて、どこからか熱が込み上げてくる。


なぜだろう、あたしはその熱に懐かしい心地よさを覚えた。


ゆらり、ゆらり。一定のリズム。あたしのすぐそばに、なにかの気配を感じる。


痛み。不意にかすかな痛みを感じたけれど、甘美な感覚がすぐにそれを打ち消した。


あたしは恍惚として闇の中を漂う。


気のせいだろうか、さっきからどこかでなにかの音が鳴っているように思える。


あたしは耳に意識を集中させた。
< 55 / 66 >

この作品をシェア

pagetop