ミモザの朽ち木
そして二年が経過した時、ある事実が発覚した。

それはあらかじめ仕掛けられていた罠のように、俺の心を深くえぐり、粉砕した。


暑くもなく寒くもない、よく晴れた日の昼下がり。

新しい取り引き先の営業を済ませた俺は、昼食をとるために適当な店を探していた。

目抜き通りの歩道をぶらついていると、『乙ヶ部陶芸教室』という置き看板が目にとまった。

その看板を見て俺が連想したものは、もちろん流利子のことだ。

流利子は相変わらず陶芸教室に通い続けていた。

そう言えば、どこの陶芸教室に通っているのだろう?

などと考えた矢先、まさにその看板の置かれた真新しい雑居ビルから流利子が出てきた。


流利子に声をかけようと片手を上げたところで、俺は動きを止めた。

流利子と並んで歩いている男がいたからだ。


一見して、地味で冴えない風貌だった。

どこにでもいる、あらゆる意味で凡庸な、何の特徴もない男。

注意して見なければ、どんな姿形をしていたのか三秒後には忘れているかもしれない。


二人は親しげに話しながら、路肩に止められたシルバーのロータスに乗った。


どうやら流利子は、この陶芸教室に通っているらしい。

が、しかし、今日は平日だ。

流利子は日曜日にしか陶芸教室に行かなかったはずだ。


直感が行動を駆り立てた。

俺は近くで客待ちをしているタクシーに乗り込み、シルバーのロータスを追うように指示した。


あの男は誰なんだ?

あいつの車に乗ってどこに行こうとしている?
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