この世界で二度きみを殺す
「そーちゃんそーちゃんそーちゃんそーちゃん!」


「ぢ、ぢざど、」



"ぐるじい"と続けようとするが、首に回された腕がさらに力を増し、

それすらも叶わなくなった。



「大丈夫?頭痛くない?気持ち悪くない??」



僕の脚をまたいで中腰の体勢をとるちさとは、

見下ろすように僕のおでことごっつんこする。


そう言えば、と、さきほどの事を思い出すと後頭部に鈍痛が走ったが、

片目を瞬きさせる事で分散したので、大したことはないと思う。



「大丈夫だよ。
それよりちさと、ここはどこ?」


「式場の会議室みたいなとこ。
ほんとはスタッフの人たちが救急車呼んでくれようとしたんだけど、医務室の人が気絶してるだけだって言ってたし……

もし一日でも入院とかになっちゃったら、そーちゃん、嫌だと思って」


「…そっか、ありがと」



すると、膝で立っていたちさとは、そのまま腰を下ろして僕の胸に頬を当ててくる。



「…死んじゃうかと、思った」



か細く、震えた声。


小さな部屋の中に、遠慮がちに鼻をすする音だけが響く。


式場のスタッフ達が、扉の外で業務に勤しみ慌しくしているのを、聴覚をもって知る。



けど僕は、ちさとの俯いた姿だけを、ただただ見つめていた。
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