この世界で二度きみを殺す
今から10年ほど前、とある住宅街で強盗殺人未遂事件が起きた。

…いや、一時期そう名付けられてしまった事件があったというべきか。


被害者は両親の新山和則、同じく美也子。

そして事件が起きた当初は身元不明とされていた女性の三名。


事件当日、子供の虐待が疑われる新山家に教育委員の女性が訪れる。

女性の訪問はこれで数度目。

女性は回数を重ねる毎に、少しずつ、けれど確かに新山夫妻を追い詰めていた。


そこで、今までで最も悲惨で残酷な虐待が行われる事になる。

和則が、ちさとにある命令をしたのだ。

『女を殺せ』と。

出来なければお前を殺すと。


和則は女性を居間へと招き、美也子を交えた三者面談を始める。

そして女性は決まり文句のように言う。

『ちさとちゃんに、お会いできませんか?』

夫妻は笑顔で頷く。ちさとの名前を呼ぶ。

ちさとは腰の後ろで手を組みながら、女性の隣に遠慮がちに立つ。

『学校には、ちゃんと行けてるかな?』

女性は笑顔。夫妻も笑顔。ちさとの手には長包丁。


頷くと、女性は微笑み頷き返し『また来ます』と席を立つ。

背を向けた。

夫妻の刃物より鋭い目。

ちさとは刃を向け、その背中に突進する。

ぶつかる。女性は嘔吐物が喉に突っかかるような声を上げる。

倒れる。包丁を引き抜く。降ろす。引き抜く。降ろす。そしてまた引き抜く。


ちさとが発狂する。夫妻が大笑いする。

その刃は笑い声で空を劈(つんざ)く夫妻に向かう。

部屋がみるみる赤に染まってく。

赤だるまが一体、二体、そして三体。


みんな狂って、おかしくなった。



それが全ての終わりで、ちさとのズレた人生の始まりだった。






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