この世界で二度きみを殺す
目を閉じながら、まどろみから少しずつ意識を引き寄せる。



闇の果てには、光。



瞼の向こうから明かりが漏れている。



静寂の中に、シャリ、シャリ、と、瑞々しい音が聞こえる。


その音と共に、いつだかの記憶が蘇る。


あれは中学の時だったっけな。



38度の熱を出し、学校を休んだ日の昼下がり。


気だるくてぼんやりとした意識の中、うっすらと目を開くと、枕元でちさとが林檎を剥いてくれていた。



微かに聞こえるリズムが心地よくて、ずっと聞いていたいと、僕はまた目を閉じる。


そうしてしばらく夢との合間を行き来する。


すると、ふと、額に乗った生暖かいタオルが肌から離れる。


反射的に目を開けた、その瞬間。



ひんやりとした小さな手のひらが当てられる。



僕の前髪をそっと掻き分けながら、『起こしちゃった?』と、目を細めるちさと。


柔らかさの中に骨っぽさを微かに感じるその手が気持ちよくて、もう一度目を閉じる。


水分を失った唇で、『起きてた』と、聞こえるか聞こえないかの、か細い声で言いながら。





…シャリシャリという音は、まだ続いている。


このまま目を閉じたままでいれば、ちさとはずっと、僕に林檎を剥いててくれるのかな。
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