この世界で二度きみを殺す
姉さんは目線を手元の林檎へと戻す。



「動かないの。先生に怒られるでしょ」


「…ああ、」



"だね"と続けようとした瞬間、脇腹に身が裂けるような痛みが走る。


あ、痛い。痛い。これは本気で痛い。


顔を上に向け、呼吸を出来るだけ浅くする。


そんな僕を姉さんは横目で見て、肩をすくめる。


"言わんこっちゃない"と目が言ってる。薄情な。


ちさとだったら、きっと抱きついて僕の心配をするのに。


そのせいで、更に傷が痛んで悪循環になると思うけど。



……。



ちさとは、どうなったのだろうか。




「……ちさと」



腹部を刺激しないよう、出来るだけ少ない文字数で呟くように尋ねた。


けれど姉さんは反応せず、皮むきから切断作業に入る。



聞こえてないのかな。
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