この世界で二度きみを殺す
すっかり裸になった林檎は小さなまな板に置かれ、刃が入れられる。


そして刃の向かう方向が定められ、そこから一気に真っ二つになる。


すると丸々としていたそれは、ハートのような断面図を綺麗に描いた。




「………お葬式、行ってきたよ」



姉さんはそう言うと、布巾で手を拭ってから、僕の足元にある椅子の上のバッグに手を伸ばした。


そこから小指くらいの小さな小瓶が取り出される。



「ごめん……本当に。行かせてあげれなくて」



中には粒のまばらな、白い砂。


受け取って、光にかざす。







……ちさと、だった。







指を絡めあい、


キスもして、


そしてたった一度だけ、肌を重ね合ったあの、


僕を"そーちゃん、そーちゃん"と何度も呼んだちさとが今、


……。




…こんなに、小さな瓶の中に、いる。
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