この世界で二度きみを殺す
確かにちさとがした事は、褒められるような事じゃない。



けど自分らが同じ状況に置かれた時、

そうしないと自分の命が無くなるかもしれない時、

犯罪だからと、最期まで綺麗事をほざいて大人しく死んでいけるのか?



褒められるような事じゃない。


けれどちさとは今も、
心を、身体を、壊したままに、自分を責め続けている。



それを好奇に塗れた他人が掘り返していい事じゃない!




僕は怒りに任せて、思い切り殴る。



何度も、何度も、
何度も、何度も。



しかし呆気に取られていたメンバーが我に返り、あっという間に逆転されてしまう。


真横から容赦無い蹴りが入れられ、さきほどの野本君と全く同じ体勢になる。



僕は殴られる代わりに、男子数人に囲まれ、蹴飛ばされる。



そして意識が朦朧としてきた頃、それは唐突に止んだ。



廊下を通りがかかった生徒に呼ばれた先生達が、駆けつけたのだ。



それが、この事件の幕が下りる合図。




野本君たちは、それ以来ちさとの話をしなくなった。


少なくとも、僕の前では。



だから僕は、今も毎日監視を続ける。



監視と言っても、ただ登下校を繰り返すだけだけど、

僕がその空間に存在するだけで、野本君はちさとの名前を口にしないから。



興味本位でちさとが穢されることは、ないから。


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