この世界で二度きみを殺す
「ちさと、襟の裏から何か、」


足元の物体を拾おうとした僕の手が跳ね除けられる。


代わりにそれに触れたのは、ちさとのもう片方の手。


それを拾うと、素早く襟の裏に潜らせた。



その時、ちさとの目の色が変わっていたのが確かに見えた。


いつもの能天気な色でもなく、かといって怒った時の"アレ"でもない。


取り返しのつかない失敗を、可能な限り巻き戻そうとする、慌てた色。


そしてそれは異常ではなく、正常な思考回路をもつ人間の動作だった。



今まで変わった動作しかしなかったちさとの、"普通"な動作。



「…ありがと。
ちさとは髪と着替え先にやるから、そーちゃん先にご飯食べてていいよ♪」


「…わかった」



僕の感じた違和感については、何となく、言及しないでおいた。
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