この世界で二度きみを殺す
一本の透明の傘を、二人で共有しながら歩いてゆく。


曲がり角を曲がって家が見えなくなった所で、ちさとが僕の腕に密着する。



家族は多分、僕らの事を"大変仲の良い兄妹"ぐらいにしか思っていない。


実際は従兄妹だけども。





―――家族は知らない。



僕らが人目を盗んで、互いの指を絡め合うことも、

時々、口付けを交わすことも。




「これ、ほんとに午後止むのかなぁ?」



"午後は快晴"とまで言っていた天気予報を思い出してか、

ちさとは透明の傘を打つ雨粒を見つめ、手のひらでその強さを計ろうする。



今日のちさとは髪を高い位置でまとめていて、

いつもは隠されている輪郭やその周辺のラインがよく見える。



上を見上げている時の、顎から鎖骨にかけての滑らかですっきりした線が凄く綺麗で、

なぞってみたいと、傘を持つ手が疼く。



今は服で隠れている、そこから肩に続く曲線を"思い出し"、

ぐるぐる、もんもんとしたものが、その衝動を更にかき立ててゆく。


そしてそれを抑え込むように、柄を握る手に力を込める。





――誰も知らない。




僕らがたった一度だけ、素肌を重ね合ったことを。




世界中で、僕とちさとだけしか、知らない。



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