この世界で二度きみを殺す
避けるにも、受け止めるにも、もう少し判断の時間が必要だった。



スローモーションのようにちさとの背中が近づいてきて、僕は傘を手にしたまま目を丸くするのみ。


そして結果的には、ちさとの背中を顔面で受け止める形になる。



右手に持っていた傘は、ゆっくりと前に投げられたように見えたが、

実際は僕らが後ろに向かって押しやられたようだった。



その場に投げ出されたはずの傘が、次第に視界の下の方へと追いやられ、

代わりに曇り空が広がってゆく。



それはどうやら、階段と仲良く90度の角度を成していた僕の身体が、

100、110、120と、度数を大きくしている事を意味しているようで、

それが一定数に達したであろう、その時。




背中とコンクリートが摩擦を起こした。


平衡感覚を失い、上下の区別がつかない。



頭の向く方向を上とするならば、僕らは上に向かって階段を滑り落ちていった。



そして後頭部に激痛が走ったのを最後に、背中の摩擦はなくなった。
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