僕らのままで
あたしは、───倒れまいとして、思わず───
哲にしがみついた。
「美亜」
哲の声が、すぐ耳元で聞こえる。
「立ちくらみした?」
何よ…なんで、なんでこんなに優しいの??
いつもと違うよ。
哲────
あたしをたぶらかしたって、何も出ないよ…。
だんだんと、視界が晴れてきた。
そして見えたのは、予想以上に近くにある、哲の顔。
野球少年らしい、ハッキリとした凛々しい面立ち。
いつもケンカしてたから、気付かなかった。こいつ、結構…男らしい…。
哲────。
「!!」
そこまで考えて、あたしはハッと我に返った。
あたし、なんか変だ!!
今、絶対に哲にときめいてたっ!!
なんで!?
なんで哲なんかに!!
馬鹿じゃないの、あたし!?
「…もっ、もう、大丈夫みたいっ」
あたしは、慌てて哲の腕から離れた。
「りんごは?」
哲が不思議そうに聞いてくる。
「…食べるっ」
あたしは、差し出された紙皿を乱暴に受け取った。
いつものように。
───なんで。
なんで優しくなれないの?あたしは…
りんごを口に運ぶと、バターと果実の甘味が、ふわんっと口中に広がった。
「…おいしー…」
呟くと、哲が嬉しそうに笑った。
「よかった」
あたしは、こんなにもぶっきらぼうなのに。
優しくなんかなれないのに。
哲は、いつも、あたしを受けとめてくれる。
時にはからかわれたり、拗ねられたり、嫌味を言われたりするけど。
でも、哲は、いつもあたしを見ていてくれる──。
なのに。
ごめんね。
『ありがとう』の一言が言えない。
こんなあたしで、ごめんね…───。
あたしは、大きく口を開けて、ガブッとりんごにかぶりついた。
それが、溢れてきた涙を隠すためだなんて───
哲には、気付かれたくない。