僕らのままで
もどかしい──Side 哲
*4 side哲*


 りんごは、美亜によく似合う。

 …美亜が焼きりんごを食べるのを身ながら、そんなことを考えていた。

 甘いけれど、ちょっと酸っぱい。

 りんごは、美亜そのものだ。

 …本当は、もっと早く仕事を代わってやりたかった。美亜が、何か食べたそうにしているのも、判っていた。

 だけど、俺は───出来なかった。

 動けなかったんだ。

 一生懸命に火を起こしている美亜の横顔が、とても綺麗に見えたから。



 美亜のことは、ガキの頃から良く知っている。


 だけど、あんなに綺麗な美亜の表情を見たのは初めてで。

 メイクも崩れてしまっていて、汗だくだったけれど、そんな美亜が、本当に綺麗だと思った。


 それは、『顔立ち』とか『気立て』とか…そんなものよりも、どこか高貴だった。


 何かに一生懸命になっている人というのは、こんなにも心に強く訴えかけるものなんだと、身に染みて感じた。

< 14 / 26 >

この作品をシェア

pagetop